相続放棄できなくなるかも??

亡くなった人の預金は勝手に引き出していいの?

今回は「相続発生時に預金を引き出すことの注意点」についてお話ししたいと思います。
相続,預金,凍結,引き出し
人間は誰しもがいつかは亡くなります。

 

大切なご家族が亡くなった悲しみは本当に大きいものです。

 

せめて安らかに休んでもらえるように最期のお別れとしてお葬式を執り行います。

 

最近では”家族葬”などの近しい人のみを集めた新しいスタイルのお葬式も増えてきています。

 

家族葬専門の葬儀社やセレモニーホールも街中で色々見かけるようになりました。

 

お葬式も時代に沿ってどんどんスタイルを変えつつありますが、お葬式はタダではできません。

 

どうしても費用がかかります。

 

規模によって金額に差はありますが、日常出費しないような高額になることが多いです。

 

そこでその費用をどこから捻出するかが問題になります。

 

一般的には葬儀をされるご家族さんの財産から出しておいて相続の際に清算するなどが主流ですが、なかには先に被相続人の財産から出費される方がおられます。

 

ご存知のように銀行口座は口座名義人以外が利用することはできません。

 

認知症などの特別なケースでは後見人等が管理することはありますが、あくまで”代理人”ですので、本人の利用と同視できる状況です。

 

ですので、「口座名義人が亡くなる」ということは利用者がいなくなるということになります。

 

すると銀行はその口座を凍結します。

 

利用できなくするわけですね。

 

なぜなら利用者が亡くなった瞬間からその口座は相続財産になるからです。

 

今までの考え方では銀行口座は遺産分割の対象ではなかったので相続開始と同時に法定相続分で当然に分けられる扱いでした。(実務的にはどうあれ)

 

先日最高裁の判例によって、実務に即して預金も遺産分割の対象とすると判断されたので今後は運用も変わってくるとは思いますが、大枠としては誰のものかわからない預金を相続人とはいえ勝手に払い戻すわけにはいかないというのが銀行側の立場です。

 

トラブル防止の点からすれば当然かもしれません。

 

では銀行はどうやって口座名義人の死亡を知るのでしょうか。

 

今まで銀行から生存確認の電話を受けたことはありますか?

 

ありませんよね。

 

銀行は新聞の訃報欄や家族の申告によって死亡の事実を知ります。(もちろんその他のルートでも知られる可能性はあります)

 

だとすれば死亡から銀行に知られるまでの間のタイムラグを利用して財産を引き出すことはそんなに難しいことではありません。

 

しかしその方法はあまりお勧めできません。

 

理由は二つあります。

 

一つ目は相続放棄ができなくなる可能性があることです。

 

相続財産があってもそれ以上に債務がある場合などは相続したくありませんから相続放棄という手続きを取ることになります。

 

3か月以内という期間を守れば相続人単独でできます。

 

しかし例外があります。

 

相続財産を処分等した場合です。

 

財産を使うということは相続するという意思表示と受け取られ、財産を一度受け取ったのに後からいらないというのは信義則に反すると判断されるのです。(法定単純承認といいます)

 

葬儀のために使う場合も財産の処分に当たると思われます。

 

よって口座が凍結されていないからと勝手に預金を引き出すのは控えた方がいいと思います。

 

また二つ目の理由として他の相続人に「持ち逃げ」を疑われ、遺産分割が円滑に進まなくなる可能性があることです。

 

遺産分割において財産をチェックしていると預金がたくさん減っていることに気付きました。

 

生前被相続人から聞いていた金額とあまりに違うので取引履歴を調べてみると亡くなった後でたくさん引き出されていることが判明しました。

 

引き出した相続人を問い詰めると「葬儀代として使った」といいますが、領収書を出してくれません。

 

あなたならこの状況をどう感じますか?

 

何か怪しい…と感じませんか?

 

もしかすると領収書を出したところで怪しまれるかもしれません。(水増しなど…)

 

遺産分割においては小さな疑念が一つでもあるとどんどん大きくなっていきます。

 

信じられない人の行動は何をしても怪しく見えるんですね。

 

相続人の負担を減らそうと被相続人の財産から出費しようと思ったのに全く逆の効果が発生することもあります。

 

なのでやはり基本的には相続財産からの出費は避けた方がよさそうです。

 

万が一、どうしても相続財産から出費する必要がある場合には相続人全員の承諾を取っておく必要があります。

 

その上で銀行とよく話し合い引き出すようにしましょう。

 

最後に、葬儀費用は相続において相続財産から控除できる費用です。

 

リスクを避けるには相続人の一人もしくは数人で先に出費をしておいて後日相続財産から回収する方がいいでしょう。

 

もしくは生前にご本人が葬儀費用を出金しておくことでも対応できます。

 

また葬儀費用をあらかじめ信頼できる人に信託しておくこともいい方法だと思います。

 

まだ一般的に信託は広まっていないのでご不明点があればご相談ください。

 

相続はお互いの信頼関係が第一です。

 

疑われるような行動は避けておきましょう。

 

 

◇◇追記です。◇◇

 

この度民法の相続に関しての部分が改正されることになりました。

 

その中で預金口座についてのルールが定められました。

 

預金口座が凍結された後であっても「法定相続分×3分の1」に関しては払い戻しが受けられます。(仮払い制度といいます)

 

この制度は葬儀代や当座の生活資金などに使われることを想定されています。

 

公布から1年を超えない範囲で施行されることになっていますので今すぐ使えるわけではありませんが、覚えておいて損はない制度です。

 

とはいえ上記にある通り、他の相続人との無用なトラブルを避けるため、できるだけ立替払いという形をとった後で支払った必要経費については清算という方法の方が実務上はいいかと思われます。

 

 

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